おいでなすったー

テーマとか宣言すると一夜坊主で終わることがわかったので、そういうのやめて、書き散らかしていきます

弊社のおちんぎん体系の設計のはなし

働き方改革ばなしでちょっとやり取りしたので、もののついでに今の自社(自分)の考え方をメモっておきます。

結論からいうと、弊社は従業員給与については、もっとも普通な月給制(日給月給制)をとっています。いわゆる固定残業代はナシで、フレックスタイム制裁量労働制でもありません。

定時について

所定労働時間のこと

ある程度自由な時間帯に勤務できるようにした

毎日の所定労働時間の勤務を要求するが、開始時刻を変動させてよいことにしています。6:00 ~ 12:00 にスタートし、15:00 ~ 21:00 がエンドになるのが基本です。

「毎日決まった時間に合わせて動くのは非効率的」と考えています。時間を合わせるために皆が調整するコストを払うのは無駄で、複数人が連携するなら随時連絡し合ってお互いの都合のいいタイミングを調整すればいい、と思います。と、いうか、自分自身がそういう定時の予定にペースを乱されるのがとても苦手だ、というのが大きいのですが。

フレックスタイム制裁量労働制は採らない

勤務時間を自由にする目的では、裁量労働制フレックスタイム制が選択肢として挙がりますが、いずれも回避しました。

裁量労働制を採らない理由は2つ。

  • 実質的にそんなに裁量のある仕事を任せるつもりではない
  • 長時間労働となった場合は残業代を出したいという立場だから

フレックスタイム制を採らない理由も2つ。

  • システム開発業の性質から言って、リリースや障害対応で会社から時刻を指定して勤務させることがありえる点が、フレックスタイム制の適用条件からいって不適切に思える
  • フレックスタイム制では、病気や意欲がわかないなどで勤務時間不足となると、労働者が自力でリカバーしなければならなくなる。労働時間に裁量余地を持たせたい動機は、ストレスの少ない環境にしたいからなので、一定以上職業能力(自己管理能力)の高い従業員だけを想定するのでなければこの制度は危険であると考えた
終わりの時間

エンドの1時間前以降は、当日業務が完了していれば8時間勤務したと見なして帰ってもよいことにしています。10:00出勤の場合は、定時は19:00までですが、順調なら18:00には帰っていいことになります。

取引先が採用していたルールで、よいと思ったのでパクりました。仕事って決まった時間にぴったり終わるもんじゃねえだろという考えが基礎にあります。19:00を狙って仕事をすれば、少し早く終わったり、少し延びて終わったりするはずです。19:00までは職場にいなければならないとすると、19:30とかを狙って仕事をしないと成り立たなくなり、残業が前提になります。それでは非合理的だと考えています。

この条件設定だと自然に残業が発生する日もあるはずなので、「通常のペースで仕事があれば月に数時間残業が発生する」という前提でコストと給与設定をきめています。

深夜帯はナシ

定時の時間帯を変えてよいということにはしていますが、深夜早朝帯(22:00-04:00)にかかるのは基本なしとしています。主な理由は割増賃金を払いたくないからですが、コアタイムに相当する時間帯をつくることや、夜勤は健康影響が懸念されるので避けるべきという考えもあります。

問題点

ふつうの労働契約でもべつに定時の時刻は変動していいんだって誰かが書いてたと思うんですけど、ここが本当にOKなのかしかるべき確認はしてません。対従業員本人で特に問題になってないので後回しになってる...

時間外労働について

残業代のこと

残業代への考え方は、会社と従業員の関係性によってもだいぶ違ってくるものだと思います。給料払う側の視点では、生活残業が蔓延しているような職場だと、いかに残業代を払わないかがテーマになって行かざるを得ません。

弊社はいまのところ信用のおけるごく少数の従業員しかいないテイで行くという前提が置けるので、そういう制約にはとらわれずに方針を決めています。

固定残業代はやめました

IT業界では、「月給○万円、ただし×時間分の残業代を含む」という給与設定がわりと多いです。実際の残業時間が×時間に満たなくても、×時間分は払いますという条件にすると、形式的には労働者側に有利なカスタマイズなので合法になります。

定時が月当たり 8時間 × 20日 = 160時間、固定残業代が40時間分であれば、この月給○万円は、1時間当たりの給料の 160 + 40 × 1.25 = 210 倍の額です。これが最低賃金に引っかからない限りにおいては、実質的に一定時間まで残業代を払わないことと、残業代が発生するに至ってもその単価を低くすることができます。

なお、IT業界ではこれが蔓延しているのであまり疑問に思われていませんが、宅地建物取引士と労働問題専門の弁護士から「それは本当に合法なやつなのか?」と聞かれて、納得されるまでにけっこう時間がかかった経験をして、わたし、気が付きました。固定残業代は、普通の人の目線では「なんかヤベー会社なんじゃねーか」という印象を持たれかねないようなテクニックです。

固定残業代は、良くも悪くも利用し得る道具であると言えます。

  • 見せかけの月給・日給を高く見せる効果があります。求人情報において新卒の月給の最低水準が23~24万円であるとき、形式的にこの数字に追従するための手段として固定残業代を用いるところが多いです。
  • 能力的に高い時給は払えない従業員に対して、一定の月給を保障する方法として機能させることができるという言い方もできます。*1
  • 普段は固定残業の時間数に達しない業務量で回っているのであれば、案件が燃えても残業代が増えない効果が期待できます。普段から固定残業の時間数を超えるほどの業務量があるのであれば、単に残業代の単価を下げる効果があります。
  • 仕事を能率的に終わらせた方が得をする環境を実現する道具になりえます。200時間かけても160時間で終えても給料が変わらないので160時間で終わるように頑張るモチベーションが生まれるという運用があり得ます*2

で、弊社では、固定残業代は採用しないことにしました。

  • 単純に、外聞が悪そうなので。IT業界で固定残業代を用いる会社の従業員でも、その仕掛けを理解しておらず「うちは残業代は出ない」という表現をする人もいます。そのように言われる危険があるのは損だと思います。
  • 固定残業代を用いると、他人を手伝ったり、余分に働くことが非合理的になるという欠陥があります。今日だけ余分に案件をこなしたいので手伝ってくれないか、というときに、従業員側がそれに応じても得をしないのは破綻しています。それでも回せている会社はなんかいろいろな人間力的なサムシングが働いているのかと思うのですが、そういうのに漬かって暮らすことは、システム開発の技術者としての思考能力にとってプラスに働かないのではないかと思います。
  • 決まった仕事を短時間で終わらせた方が得なので能率が上がる、という状況が成り立つには、職務記述がきちんと決まっていて、自分の仕事がきちんと区切られている必要があります。早く終わらせると手が空いてるならこれやってと新しい仕事を突っ込まれたらおかしいです。弊社は、零細企業なので、従業員に技術的に高等な経験を積ませてあげる能力が乏しい代償に、小さい会社を回す作業すべてをつぶさに見られることを活かしてほしい、と要求しています。*3手が空いたらいろんなことを見てくれと言っているので、能率よく早く終わらせたら帰るシステムには合致しないことになります。
 残業に関する各種の設定

残業についてのルールでは、残業時間全体の総量を管理しないといけないのだから、従業員本人が勝手に消費してよい残業時間の上限、管理者が指示できる残業時間の上限が決まっている必要があると考えました。それぞれを10時間・10時間と想定しています。

  • 36協定は特別条項なしで提出しました。単月で45時間、年平均で30時間を越える残業が発生すると、わたし、捕まります。今のところ、事業上の納期辻褄合わせや障害対応等にまつわるリスクを負うのは役員(わたし)という切り分けなので、これを踏み越えてはならないラインとしておくのでいいんじゃね、と考えました。従業員の仕事が遅れた場合は本人の作業量の方を変更します。
  • 契約書上、月に20時間を超える残業は、従業員が嫌だと言ったら頼めないことにしました。いっぽう、従業員が仕事のキリが悪いなどで自己判断で残業するのは月に10時間までに抑える努力をするとしました。*4これは、管理者側として稼働能力不足時に当てにしてよいバッファは月に10時間ということを意味しています。

現在は、社員に期待している役割(燃えを何とかするリスクを引き受けることは求めていない)の関係で、残業に関するパラメータを抑えめにしていますが、考え方としては、ガンガン作業量をこなしてもらうメンバーを受け入れるとしても同じ構成にする必要があると思っています。

つまり、緊急時に対処してもらうために時間外労働の枠を定義しておくのであれば、普段は予備枠が勝手に消費されないようにロックされている必要があるということです。残業過多な会社の労働時間は、ここがあやふやなので、緊急時に当然のように残業時間が約束のラインを突破します。

休暇について

営業日構成はなんとなく取引先をまねています。年間休日125日。

有給休暇

有給休暇の付与日数は、労働法の最低基準でも勤続6年半以上だと20日/年間つきますが、これは1ヶ月丸々相当であって、ここを上回ることはなかなかきびしいなーと思います。

ただ、最低基準だと勤続ごとに日数が増える年功序列がビルトインされていること、特に「新入りは半年は休むな」みたいになってるのがスゲえキモいのでいやだなと思っていて、入社直後には法定外の有給休暇を1年分の半分の日数つけるのと、勤続浅い間の日数に全般的に上乗せをして、従業員の前職時の有休日数を下回らないところからスタートして、20日/年間に向かっていくようにするという調整をしました。

ほんとは漢は黙って全員20日/年間にするべきだと思ったんですけど、根性が足りなくてへたれました。

病気休暇

仮病とか、逆に病気を隠すとかいった信頼関係の破綻が起こらない限りにおいて、病気での欠勤は有給にするということにしました。*5

かかるかどうかわからない病気に備えて有給休暇を残しておくことは合理的でないし、残弾数を心配しながら病気をする環境はストレスがありそうで有益でないと考えました。

ただ、これが疑ったり疑われたりがなく運用できる状況は限られるのかなという気がしていて、今後新たな従業員が増えた場合にはこの仕組みは維持できるかわからない、という話はしています。

そういう意味では、零細・少人数の企業なので、こういうことができるメリットを活かそうという意図もあり。

*1:首都圏で独り暮らしをするには、月に23万円程度の収入が必要だという調査結果があります。労働団体系の立場なので組合費が計算されていたりするのがご愛敬ではありますが、特殊な趣味の一つくらいは許されるべきと解釈するなら妥当な「最低水準」でしょう

*2:建前上は、どの企業もこれを狙っていると説明するでしょう。でも、このことを本気で考えているなら、フレックスタイム制にして、当月業務が完了している場合は勤務時間が200時間未満であっても200時間働いたものとみなします、とかにしたほうが適切なのではないでしょうか

*3:帳簿も代表の給料も見せますし、営業上で何を考えて動いてどうなったか聞かれれば応えます

*4:実際には4~5時間以内に収まる傾向です

*5:長期療養の場合は社会保険の手当てを使う前提での留保などはつけています